仙台高等裁判所 昭和27年(う)802号 判決
(イ) 横領罪の成立に必要な不法領得の意思とは、他人の者の占有者が、委託の任務に背いてその物につき権限がないのに、所有者でなければできないような処分をする意思をいうのであつて、必ずしも占有者が自己の利益取得を意図することを必要とするものではなく、又占有者において、不法に処分したものを後日に補填する意思が行為当時にあつたからとて、横領罪の成立を妨げるものでもない。本件につき原審の認定した事実によると「被告人は当時、新庄町役場に同役場社会課長として勤務し、同課の事務を管掌して居たものであるが、山形県民生援護会長である山形県知事からの通達によつて、昭和二十三年七月頃から同二十四年二月頃迄の間福井、石川両県に対する震災義捐金の募集事務を担当し、同町民から合計金一万八千三百円位を収受し、之を業務上保管中、昭和二十四年二月十七日頃同町内に於て該金員を擅に、新庄町民生援護会の昭和二十二年度分分担醵出金として最上地方民生援護会に交付し横領した」というのであつて被告人が右保管金の処分につき何等正当の手続を履践しなかつたことは原審第十四回公判において自供するところであり、また被告人が町民から収受した義捐金の処分につき地方事務所の大場博行を経て山形県社会課に指示を仰いだのは、その後のことであることも原審第十回公判調書中証人大場博行の供述記載により明らかである。なお右義捐金の処分が正当の手続を経ないものであつて、越権行為と認められる場合であつても、その所有者の為これを費消したものである場合は、不正領得の意思実行があつたとは言い得ないことは所論のとおりであるが、被告人は苟も本件義捐金を新庄町民生援護会という山形県民生援護会の下部組織である小団体の為、その中間団体である最上地方援護会に対する分担醵出金として擅に交付したものであるから、例え本件義捐金の所有権がその醵出者にあろうと、山形県民生援護会にあろうと、右被告人の処分行為は他人の物を処分したことになる。然らば、被告人は町民から寄附を受けた義捐金はこれをその目的の趣旨に従つて送金するか、然らざれば醵出者に返還するか、その募集者の指図によつて処置する迄の間はこれを保管する任務を有するのであるから、被告人が擅に他にこれを処分するが如きは固より法の許さないところである。従つて、叙上説示の理由により、原審の認定した事実自体から被告人に横領罪の成立に必要な不法領得の意思があつたことを知ることができるのであつて記録を精査するも原判決には事実誤認を窺うべき事由や採証の法則を誤つた違法は存しない。論旨は理由がない。
(ロ) 銃砲等所持禁止令にいわゆる所持とは、銃砲等を自己の事実支配におくことをいい、自らその事実支配を始めたことを認識した以上、これが自己の事実支配を脱したことを確めない限り、依然その所持を継続しているものと解するのが相当である。然るに………被告人は復員後、母から刀は届出た旨を聞いたので、そのつもりでいたというのであるが、銃砲等所持禁止令並びに同令施行規則による届出義務は、所持者自身がこれを負うのであるから、被告人が一旦所持を開始した以上、発覚に至るまで事実本件刀が被告人方に蔵置されていた本件においては、その事実支配を喪失したことを確認しない限り、依然被告人の所持は継続し、仮に右蔵置の事実を忘失していたとしても、それだけで所持の認識を欠き、犯意を阻却するものとは断じ難い。